2006年12月4日月曜日

10年目にして子供に初めて教わったサッカー

37年間、プレーヤーとしてコーチとして監督としてサッカーをやってきた。
 何故、うちの子達はバランスを崩して蹴るのだろう、今は誉めてあげると伸びるのかと、種々教えられることはあるのだが、サッカーの「あるべきプレー」を教えられたのは初めて、と考えさせられたのが6年生の東総大会での「ある選手」の話。
過去のコラムでも登場する彼は、運動音痴で成績も下のほうらしい。身体能力が著しく低い彼は6年生ではあるが、1ケ月前までも満足にボールが蹴れない。しかしながら、サッカーが好きなのか、ボールをこねくり回し、夏の合宿ではたまたまフォワードにコンバートされた。
全日本の中山選手も、もともとバックだったのが、FWにコンバートされ、成功している。また、もともとFWだった井原選手は、バックにコンバートされ成功したという事例について、誰もが承知のことと思う。。
 と、このことを持ち出す論議はオーソドックスな話で、サッカーをやる玄人まがいの素人は、この論議で話が盛り上がる。
 残念ながら今回注目したのは、フォワードのプレイヤーとしての「あるべき姿」について。
 彼は現在でも小柄で細く、まるでクラゲのようにフラフラと走る。
 1試合目・2試合目、、、敵のキーマンである選手と1対1となり体を入れられボールをとられる。その奪ったボールを持って上がろうとする相手キーマンがボールコントロールを乱す。
誰もが、たまたまキーマンがボールコントロールをミスしたと判断したと思う。
 キーマンも自分のミスだと思っているだろう。
 違う。奪われた後、入れる体を持たない彼は、それでもチョコンとアタックする。
取れないのだが、相手はボールコントロールを乱す。そして、乱れたコントロールの結果、彼の目の前にボールが転がるケースが2度・3度と。
 オシムが巻を外さない理由に『あれだけ前線でボールを追いかけてプレスをかけようとするFWが他にどこにいる』と発言している。
 多くのファンタジスタが前線でボールを追いかけることがない為、監督と合わずファンタジスタ不用論が出て、かといってファンタジスタがいないと得点が取れず、という始末。
 走り回りプレスをかけるのではなく、取られたら、自分のエリアならチョコンとボールにタッチしてコントロールを乱す。こんなブレーは見たことがない。こんなFWの守りがあるのだと。そのことを理解するのに一晩かかった。あのプレーは???と。
 ヘタクソで体がない彼はずっとバックだった。どんどん抜かれる。しかしながら、経験したバックの守りはFWのポジションにおいて活かされたのだ。
 こんなプレーは、かって中田選手がオリンピック予選で見せた中盤でチョコンとつま先でボールを触り、奪い取るシーン以来。
 中田選手のあのプレーが私の記憶になければ、彼のプレーの本質を理解することができなかったと思う。
 つまり、ボールを獲られたらそのままの選手が多い、獲られたから追いかけ、取り返すのがセオリー。しかしながら、彼のプレーはそれ以上に早いプレスをかけていることを意味している。
 そのプレーを表現したくてここまで、つらつらと記載しているが、文章表現が低い為、うまく描けていない。このプレーは今までにないFWプレーヤーとしての守りだと。
 このプレーをうまく説明することをあきらめたとしても、そのプレーが出てきた彼の気持ちを代弁するならば、彼はサッカーが好きだ。
サッカーが楽しい。誰に何を言われようとサッカーが面白いのだと思わざるにいられない。
 教えることについてはうまくない、しかしながら、サッカーのプレー、戦術については、オフト以上と自負している私だが、37年目にして今までにないプレーに出会った不思議な感覚。それは、最も運動能力がないとした彼がもたらしたプレーだった。
 何を言われようがボールをこねくり回すクラゲのサッカー選手によって、うまいといわれる子供のプレーがいかにオ-ソドックスな次元を越えていないと感じられるほどの新しい創造を見させてもらった、そんな感覚である。
【監督・代表】